ここでは脂質異常症の中でも治療エビデンスの豊富な高LDLコレステロール血症について記載します.
■1 背景・基礎知識

前提知識として累積したLDLコレステロール値はMACEの発生率と相関します.図の引用元のTada H, et al. Circ J. 2021;85:2073-2078.は家族性高コレステロール血症患者を対象とした研究ですが,LDLコレステロールはある一時点の値だけでなく,生涯にわたってどれだけ高値に曝露されたか,すなわち累積LDLコレステロール曝露が心血管イベントリスクを規定することを示唆する非常に重要な結果です.したがって,若年者では10年リスクが低く見えても,高LDLコレステロール血症を長期間放置することで将来の動脈硬化性疾患リスクが蓄積していくことを意識しておく必要があります.
また,高TG血症や低HDL-Cも心血管イベントのリスクとなります.しかし,PROMINENT試験では,TG 200–499 mg/dLの2型糖尿病患者にペマフィブラートを投与してTGを低下させても,ASCVDイベントは減少しませんでした.また,HDL-Cを上昇させる薬物介入についても,複数のtrialで心血管イベント抑制効果は示されていません.一方で,LDLコレステロールについては,薬物介入により低下させることで心血管イベントを減少させることが複数の介入試験で示されています.以上から,脂質異常症に対する治療介入としては,LDLコレステロール低下が中心となります.
■2 診断
▪️採血のタイミング
原則としては10時間以上の絶食時の血液検査で判断します.LDLコレステロールは直近の食事の影響は受けにくいことからスクリーニングとしてはそこまで気にする必要はないでしょう.
▪️導出法
ガイドライン上の基本はFriedewald equationを用いた方法であります.すなわち,LDL-C = TC − HDL-C − TG / 5の導出式を用います.(*TG濃度が400mg/dL以上では使用できないことに留意.)しかし,日本においては直接法を用いることが多く,近年の試薬ではFriedewaldとの差も少ないことから直接法も許容されます.
▪️二次性の除外
▪️FHの診断
別途記事を作成予定です.
■3 リスク層別化
ヨーロッパ,アメリカのガイドラインとはリスク層別化・治療介入の目標が異なります.下記に動脈硬化ガイドライン2022年度版のフローチャートとリスク区分別管理目標を示しました.(プルダウンをタップして参照ください.)
久山町研究によるスコアリングは暗記できるものでもないため,①2次予防か否か.②糖尿病・CKD・PADがある場合は高リスクになることを記憶しておけば良いでしょう.また,ガイドライン中にも記載がありますが,動脈硬化性疾患発症リスクモデルはあくまで今後10年間の発症リスクを示すものであり,若年者では生涯リスクを十分に反映しないことに留意する必要があります.特に40歳未満は久山町スコアの対象外であり,若年者では短期リスクが低くても危険因子の累積曝露によって生涯リスクが高くなり得ます.
脂質異常症のスクリーニング

動脈硬化性疾患発症モデル

リスク区分別脂質管理目標

LDLコレステロールの目標値はあくまで参考です.LDLコレステロールを下げすぎることによる重大な有害事象は少なく,また1次予防を含む低リスク群においても,LDLコレステロールを下げるほど心血管イベントは減少することが示されています(CTT Collaboration. Lancet. 2012;380:581-590.).CTT解析では,LDL-C 1 mmol/L(約39 mg/dL)低下あたり主要血管イベントが約20%減少しました.そのため実臨床においては,中リスク以下に該当する患者であっても,患者背景を考慮したうえでロスバスタチン2.5 mg程度から開始することは十分許容されるものと考えます.一方で,中リスク以下の1次予防では絶対リスクが低くNNTは大きいため,積極的に高用量スタチンや多剤併用を行う意義は限定的,という理解でよさそうです.
アメリカの2026年ガイドラインでは,30–59歳で10年ASCVDリスクが3%未満であっても,LDLコレステロール160–189 mg/dLまたは30年ASCVDリスク≧10%であればmoderate-intensity statin(LDLコレステロールを30–49%低下させる強度)がreasonableとされています.すなわち,若年者では短期リスクだけでなく,生涯の累積リスクをより反映する形となっています.やはり1次予防においてはこの考え方がreasonableですが,どこまで積極的に治療するかについては,食生活やライフスタイル,薬物治療による絶対的な利益,人種間の心血管リスクの差などを加味して考える必要があるでしょう.
■4 生活習慣への介入
ガイドラインにまとまった図がありましたので下に記載しておきます.よく食事で言われる鶏卵は1つでコレステロール200mgほどあるようですね.しかし,コレステロールの摂取量に対するLDLコレステロール上昇の割合はかなり個人差があるようです.
食事療法

■5 薬剤
スタチンが基本的な薬剤となりその導入の上で追加薬剤を検討することとなります.
▪️薬剤の種類
①スタチン
日本ではアトルバスタチン・ロスバスタチン・ピタバスタチンがstrongスタチンとされます.諸外国ではこのような分類はなく,製剤+容量で強度を規定しています.個人的にはわかりやすさという意味でこの分類は有用であると思います.大体の換算式としてロスバスタチン2.5mg= アトルバスタチン10mg=ピタバスタチン2mgとされています.
その他相互作用についてですが,筋痛や糖尿病,肝酵素異常などは容量依存性と言われています.アトルバスタチンはCYP3A4で代謝されるためベラパミルやアミオダロンなど循環器系で使われる薬剤と相互作用があります.総じてロスバスタチンが使いやすい印象です.
strong3剤・その合剤について下記に示します.
strongスタチン

以下がスタチン不耐診療指針から抜粋したスタチン不耐におけるアプローチです.薬剤変更を迫られた際は代謝経路の異なるスタチンに変更とされており,脂溶性↔︎水溶性の変更に限定されていません.strongスタチン同士であればどの組み合わせでも変更可能でしょう.
初回スタチン投与時の有害事象に対する推奨アプローチ

筋障害に対する推奨アプローチ

肝機能障害に対する推奨アプローチ

②エゼチミブ
スタチンに上乗せして心血管イベントの発生を減らすエビデンスがあります.スタチンの次点の薬剤としては本剤を選択するのが一般的でしょう.
③ぺムベト酸
CLEAR harmony試験とCLEAR outcomes試験から①スタチンへの上乗せでLDLコレステロールの低減効果あり②単独で心血管イベントの低減効果が示されていますが,スタチン上乗せでの心血管イベント減少は試験されていません.
スタチン不耐の患者にとっては有用な選択肢となっています.日本での適応はスタチン効果不十分もしくはスタチン不耐です.主な副作用は高尿酸血症(5%以上),痛風,肝機能異常などです.180gを1日1回投与で薬価は1錠371.5円です.
④PCSK9阻害薬
■6まとめ
①高LDLコレステロール血症・低HDLコレステロール血症・高TG血症は心血管リスクにつながる.
②心血管リスクを低減させる効果が強く証明されているのは高LDLコレステロール血症に対する治療である.
③糖尿病・CKD・PADの既往がある患者ではそれだけで高リスクとなる.
④高コレステロール血症のkey drugはスタチンである.
⑤中等度以下の心血管リスクのある症例でも生涯のLDLコレステロール暴露リスクを考慮し,strongスタチンも考慮されるが肝障害・筋障害・糖尿病発症リスクなどと比して検討する必要がある.
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